AI(人工知能)が急速に進化する中で、2045年問題が語られることがあります。
2045年問題とは、2045年頃にAIが自ら知能を生み出せるようになり、人間の知能を超える「技術的特異点(シンギュラリティ)」に到達し、予測不可能な事態や社会の大変革が起こるという懸念を指します。
「AI が人間の知能を超える日」は本当に来るのか?
これは技術者として避けて通れないテーマです。
この記事では、数学者ヴァーナー・ヴィンジやレイ・カーツワイルの予測、そしてムーアの法則・収穫加速の法則などの理論を踏まえつつ、技術者である僕なりの結論をまとめます。

1. シンギュラリティ予測の歴史
● ヴァーナー・ヴィンジの予言(1993)
数学者・計算機科学者であるヴィンジは1993年に
「30年以内に技術的に人間を超える知能が作られる」
と予言しました。
実際、2020年代のAIは自然言語・画像・動画・推論など多方面で劇的に進歩し、表面的には「人間に匹敵する知能」に見える場面も増えました。
● レイ・カーツワイルの予測
Google の AI 研究者でもあるカーツワイルは次のように主張しています。
- 2029年 → AIが人間並みの知恵をもつ
- 2045年 → 技術的特異点(シンギュラリティ)が到来
この予測の根拠が「収穫加速の法則」です。
2. 「収穫加速の法則」と「ムーアの法則」
● 収穫加速の法則
技術的な進歩が進めば進むほど、
次の進歩までの期間が短縮されるという考え。
つまり成長が直線ではなく、指数関数的に加速していくという理論です。
● ムーアの法則との類似
「半導体チップの性能は約1.5年ごとに2倍になる」
というムーアの法則は、収穫加速の法則の代表例として扱われます。
実際、コンピュータ性能の向上は技術革新の速度を劇的に引き上げ、AI研究もその恩恵を受けてきました。
3. シンギュラリティ肯定派・否定派の対立
専門家・経営者・著名人の間でも意見は真っ二つです。
- 肯定派
- 超知能は必然
- 技術は指数関数的に進歩している
- 否定派
- 知能には身体性が必須
- 人間のような理解はシステムでは再現しにくい
- 「知能」の定義自体が曖昧
- ハードウェアの限界
社会的にもシンギュラリティを楽観視する経営者がいれば、慎重派の研究者もいます。
4. 僕の視点(考え)
結論から言えば、
「シンギュラリティが到達するかどうかは、身体性をどこまで再現できるかが最大の鍵になる」
と考えています。
到達する・しないを断定するより、AIが人間のように「身体を通して世界を理解できるのか」という点が重要だと思うのです。
人間の知能は、脳だけで成立しているわけではありません。
- 重力を感じる身体
- 五感による絶え間ない情報処理
- 歩く、つかむ、触れるといった運動フィードバック
- 周囲との物理的な相互作用
- 乳児期から積み重ねる、長い時間をかけた「経験学習」
これら 「身体を通した理解」こそが、人間の知能の土台になっています。
たとえば、人がオギャーと生まれて初めて言語を覚えるとき、決して文法書から入ったわけではありませんよね。
覚えようと思って覚えたのではなく、
環境との関わりの中で自然に身体に染み込んでいった
という表現のほうが近いはずです。
これは車の運転にも似ています。
数式的または論理的に説明できるとは思いますが、実際には
「このくらい左に寄せればぶつからない」
といった感覚的な判断で成り立っています。
つまり、
体感として理解するものが、知能の大きな部分を占めている
ということです。
現在のAI(特に大規模言語モデル)は、膨大なテキスト情報を扱うことは得意ですが、
現実世界を身体で感じ取りながら積み上げる「経験則的知能」にはまだ距離がある
というのが正直なところです。
もちろんロボティクスが進歩すれば、このギャップは縮まる可能性がありますが、
ソフトだけでなくハードにも突破すべき壁が多い領域です。
そして、その壁を越えるためには、
- 医療
- 生体研究
- 脳科学
- ナノテク
- ロボティクス
といった異なる分野の技術が融合する必要があると考えています。
人間にしかない“感覚的な知能”を、どのようにAIへ移植していくのか。
ここにこそ、技術的特異点が実現するかどうかの本質があるのではないでしょうか。
2045年がどうなっているのかは誰にもわかりません。
ただこれだけは言えます。
AIとの共存は避けられず、むしろ生産性を大きく底上げする存在になっていく..
技術者にとっては敵ではなく、
「強力な拡張ツール」として接するべき時代になったと思います。
この流れを上手に取り込みながら、自分のスキルを進化させていくことが最も現実的な戦略だと感じています。
